(2022年6月追加)
●回転するベクトルで場を視覚表現する先駆的研究「量子脳力学」

『階層球列で私が仮定した4次元は「虚空間1次元+実空間3次元」で回転が可能だ。ミンコフスキー空間の性質と似ている。だが私は専門家ではないので両者が同じものなのかどうかを判定できない』と9か月前に私は書いた。だがこれは素人ゆえの無知をさらけ出した言葉だったようだ。悩むまでもなく、そんなことは物理学者から見れば当たり前、基本中の基本のようだ。電子場や電磁場を回転として視覚化する研究が30年も前に存在していたことに今になって気付いた。治部眞里・保江邦夫著「1リットルの宇宙論」海鳴社刊に書かれた量子脳力学がそれだ。


同書はドブロイ波の位相分布を次のように描写する。「いま、空間のすべての場所に時計の文字盤のようなものが存在すると考えてください。……(それぞれの時計に)右回りに回転する針は1本しかありません。実はこの針の長さは長くなったり短くなったりします。」この仮想的な文字盤を著者はエルヴィン計と名付け、針の指す向きは場所や時間によって違ってくると説明する。電磁場を描写する場合は、ベクトルポテンシャルの針がエルヴィン計の文字盤を回転すると説明する。エルヴィン計の文字盤は平面ではなく3次元だ。


数式にこだわる人は、治部眞里・高橋康著「添削形式による場の量子論」日本評論社刊を読めばいい。これも25年も昔の本だ。「3次元の空間と1次元の時間とを一緒にした、4次元空間の”回転”を考えてみます。……時間は負ノルムになっています。これがミンコフスキー空間の特徴です。……負ノルムを区別して3+1次元空間と呼ぶ人もいます」とミンコフスキー空間を記述している。また、ミンコフスキー空間における回転が「ローレンツブースト」と「3次元空間の単なる軸周りの回転」との合成であることも明快に述べられている。ローレンツブーストとは、言わば「複素平面に直交する座標軸周りの回転(回転角は虚数)」を意味する。「アインシュタインの原論文はさっぱり意味がわからなかったが、ミンコフスキーの幾何が、すべてを簡単明瞭にしてくれた」とある学者は言ったそうだ。

特殊相対性理論を満たすために、物理量としてミンコフスキー空間における場を考える。平面波の場を複素指数関数Ae^-i(ωt-kx-ky-kz)の形式で表すと、この場は4次元成分を持ち、反変座標でなく共変座標で記述される。マクスウエル方程式における電磁場と同じ共変座標だ。平面波という語感に反し、複素平面波は回転のイメージでとらえられる。

場の量子論の枠組みでシュレディンガー方程式を解くことを考える。シュレディンガー方程式には「時間に依存するシュレディンガー方程式」と「時間に依存しないシュレディンガー方程式」とがある。だが「時間に依存しないシュレディンガー方程式」と言っても、系全体のエネルギーが変化しないだけで、時間変数は存在している。「時間に依存しないシュレディンガー方程式」は一種の定常波だ。この定常状態の波動関数の時間依存部分は数学的に複素指数関数で表される。これを高次元の回転と言おうが4次元の回転と言おうが問題ない。「位相空間」とかの学術的な持って回った言い回しをするまでもなく、高次元はすでに物理学で完全に認知されている。


そもそもシュレディンガー方程式って何?と思っている方は、このサイトのご一読をおすすめする。ボーアモデルの説明図があり、シュレディンガー方程式の意味を直観的に理解できる。大学初級レベルの数学力があれば、数式の変形も理解できる。

化学者だって数学するっつーの! :定常状態と変数分離

しかし治部氏のモデルと私のモデルとでは異なる点もある。治部氏は「空間のすべての場所に時計の文字盤のようなもの(エルヴィン計)が存在する」と仮定したが、この文字盤が移動するとは考えていない。私のモデルではこの文字盤は特定の軌道上を移動する。
治部氏のモデルでは、エルヴィン計は空間の一点に静止しており、その針が言わば「軌道自転」している。だが私のモデルでは、エルヴィン計の針が言わば「軌道自転しながら軌道公転」している。「軌道自転」だけでなく「軌道公転」が存在しうる数学的理由は、「水素原子におけるシュレディンガー方程式の解」の形式が、半径の異なる複数個の球面軌道や超球面軌道が同時に存在するのを許すことだと思う。また、ミンコフスキー空間における回転は「ローレンツブースト」と「3次元空間の単なる軸周りの回転」との合成であるから、超球面軌道や球面軌道が同軸回転していても許される。


私のモデルでは、軌道自転しながら軌道公転するエルヴィン計の針の軌跡は固定経路になる。軌道自転と軌道公転の両方が存在しているのに軌跡が定常波になるとは直観的に不思議な気がするが、軌道公転周期と軌道自転周期とがうまく整数比になっているからだ。経路が定常波になるから、この軌跡はシュレディンガー方程式の解で表される。


また、私のモデルでは軌道上に球列が存在する。球体の個数を表す量子数が1の場合を別にすれば、軌道上に球体が一つでなければならないという制約はないのだろう。軌道上のすべての子球の回転数は同じと思われる。電磁気学的な比喩を使えば「すべての子球はゲージ変換可能」ということになるのだろう。しかし、考えてみれば不思議だ。親球表面軌道をいくつもの子球(エルヴィン計)が軌道自転しながら軌道公転するとき、たとえすべての子球の回転数が同じでも、すべての子球のエルヴィン計の針が同じ軌跡を描くとは限らないはずだ。それぞれの子球のエルヴィン計の針の初期位相によって違う軌跡になるはずだ。この軌跡がすべて同一になるためには、隣り合う子球と子球の位相の間に相互関係がなければならない。それぞれの子球の初期位相は、子球間の距離(あるいは親球の中心角)に応じた位相差になっている必要がある。子球列はでたらめな位相で並んでいるのではなく、規則に従って並んでいることになる。



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