●シミュレーションの物理的意味づけ

 なぜこの数式で星雲や銀河のシミュレーションが可能なのか、は簡単ではない。「自転しながら公転する」という考え方を導入してみたら、偶然シミュレーションがうまくいったというのが事実だ。理由はむしろ後付けである。

 このシミュレーションは非常に複雑な立体を表現できる。ところが、実際のところこのシミュレーションは立体的な一筆書きである。いや、一筆書きどころか、始点も終点もない。輪ゴムをものすごく複雑に変形させたのと同じことだ。現在の天文学では惑星状星雲はガスの放出現象であるとされている。放出であれば当然始点があっていいはずだが、このシミュレーションには存在しない。線の軌跡をたどるうちにいつの間にか出発点に戻ることになる。

 おそらく物理的に理解するには、「虚4次元を回転する虚3次元球」というモデルが必要となる。虚3次元と虚4次元の定義は試論で述べたとおりなので、興味のある方はそちらをお読みいただきたい。私が「水素原子におけるシュレディンガー方程式の解」をシミュレーションしたときに利用したのが虚3次元モデルであった。実平面とそれに直交する複素平面が作る3次元を意味する。人間には複素平面は知覚できないので、単なる実平面としか認識できない。虚3次元球は人間には単なる円に見える。虚4次元は実3次元に複素平面が直交した空間である。やはり人間には単なる実3次元としか認識できない。
 もしも極微の世界の電子と極大の世界の銀河が、同じ虚4次元回転の基本法則で表わされるとしたら、なんと美しいことだろう。

 順を追って説明したい。

 実3次元座標において、XY平面で円運動をする動径があるとする。この円運動を実角度θを用いて媒介変数表示し、次のように表わすことにする。

円運動

 この動径は実はZ方向に振動していると仮定する。なぜ振動しているかというと、複素ZW平面で動径の先端が円運動(自転)しているからだと考える。この自転はXやYの値には影響しないが、Zの値には虚数角φの三角関数として現れる。
 このモデルは「水素原子におけるシュレディンガー方程式の解」で用いたモデルを参考にしている。太陽の周りを公転する地球が、自転もしているのと状況は似ている。単純に原点を中心とした公転なので、ルジャンドル陪関数などという特殊関数は必要ないので楽だ。

パターンB

 これで「自転しながら公転する」最も簡単なモデルができた。グラフにするとこんな形になる。

パターンB

 次に、この図形は、なぜかしら半径や高さが同時に拡大縮小率cosαで伸びたり縮んだりするとしよう。

宇宙らせん

 このcosαは一体何を表わすのだろうか?
 この角度αを、複素空間内での3次元座標まるごとの回転を表わす虚数角だと仮定することにする。XYZの直交座標空間がまるごと複素空間を公転するイメージだ。複素XW平面における公転の場合x=cosαであるのを敷衍している。注意すべきは、この虚数角αは、実空間であるXYZ座標には角度として表われないことだ。つまり、実3次元座標系の中のどこを探してもこの角度は観測できない。単にXとYとZの長さが変化する周期によってしか認識できない。いや、たとえ長さが変化しても、実3次元の物差しの目盛りも同時に変化するので、その中に住む存在には確認不能である可能性すらある。この複素回転は、より巨大な銀河か何かの周りを、この星雲が公転角αで公転していることを示すのだと考える。
 これと対照的に、複素ZW平面における角度φの自転は、z軸方向の周期的な長さの変化としてそこに住む存在にも観測可能だろう。XとYは変化しないがZが変化する状況だ。何かの強度の周期的変化として現れたときも観測可能であろう。

 星雲の形をシミュレーションする場合、C式が元になる。このグラフは実3次元である。もっとも単純な場合、このグラフは無限に小さい穴のあいたドーナツ状になる。それをトーラス状と言ってもいい。次のような図形だ。これを宇宙らせんと呼ぶことにしよう。

宇宙らせん

 しかしまだ終わりではない。さまざまな星雲や宇宙ジェットの形をシミュレーションするには、この式をいくつかのパターンに変形せねばならない。パターン@とかパターンAと呼んだものだ。

パターン@

あるいは
パターンA

その他パターンいろいろ

 XやYやZに三角関数をかけたりかけなかったりする。この違いは一体何なのだろうか?
 宇宙らせんが虚4次元で角度βだけ自転すると考えよう。虚4次元における自転軸が実3次元に対してどの向きを向いているかで、シミュレーションの数式が変わってくるのだ。たとえば、自転軸がたまたま実次元Z軸に重なっていれば、Xはcosβ倍Yはsinβ倍になるだろう。また、自転軸がXY平面上で45度傾いていれば、XとYがcosβ/√2倍になりZがsinβ倍になるかもしれない。だが自転軸が複素平面上にある場合、どのような結果になるだろうか。XとYだけがcosβ/√2倍になるかもしれない。自転面がXYZWのどの2軸が作る平面であるかによって、いろいろな場合が考えられる。それによって、シミュレーションに用いる数式もそれぞれ異なる。
 また、自転軸がXY平面上で60度傾いていればXとYの比は1:√3の非対称になるだろうし、自転軸がXZ平面上で斜めに傾いていればXに比べてZが長くなったりするだろう。結局できあがる図形は、球に近いというよりは回転楕円体であったり細長かったりするかもしれない。それによってもシミュレーションの数式は異なる。

 ではなぜ宇宙らせんを虚4次元で自転させる必要があるのだろうか。それは、われわれの地球と星雲とでそれぞれの3次元座標のなす角度が違うからではなかろうか。宇宙らせんの実体は本当は虚4次元であるはずだ。なぜならシュレディンガー方程式の解は、複素指数関数による極座標表示では虚3次元だが、直交座標表示すると虚4次元であるからだ。複素ZW平面における回転は本当は単なる三角関数でなく、複素指数関数e^iφで表わされるはずだ。オイラーの公式によると、複素指数関数e^iφは実数成分と虚数成分の両方を持つ。X軸Y軸に加えてZ軸とW軸を持つ状態になる。この虚4次元物体宇宙らせんを実3次元に投影するとき、3次元断面の向きによって3次元における形が違うはずだ。それはケーキをナイフで切るとき、縦に切るか横や斜めに切るかで断面の形状が違うのと同じことだ。こうして星雲の宇宙らせんを地球の3次元座標に投影したものをわれわれは見ていることになる。実際に目にする星雲はそれをさらに平面に投影した2次元図形であるが。

 星雲や銀河が虚4次元物体であり、実数成分と虚数成分の両方を持つと仮定すると、星雲と銀河の違いを説明することができる。実3次元に投影したのが星雲で、虚3次元に投影したのが銀河なのかもしれない。星雲は立体図形に見えるが、銀河は虚3次元図形つまり平面図形に見える。虚3次元銀河は虚数成分がプラスかマイナスか片側しか見えないという性質があるのだろう。

 なお、上記の数式では係数は省略させていただいた。また、量子数のように定常波条件が必要なはずなので、θとφとαとβの値は全て整数比になるだろう。

 こうして数式さえわかれば、あとは実空間と複素平面におけるそれぞれの回転数や初期位相をパラメータに代入すれば、宇宙の姿は記述できることになる。

●自転しながら公転する

 ここでできあがった数式をもう一度眺めてみよう。「自転しながら公転する」というテーマが、繰り返し現れていることに気づく。B式そのものが、もともと「自転しながら公転」というモデルを表わしている。そのB式が表わす図形を、高次元でさらに「自転しながら公転」させていることになるからだ。宇宙は、「自転しながら公転」を繰り返しながら成り立っているのではないだろうか。ガンマ線バーストの写真とシミュレーションは、早い周期で複素平面を回転している何かの存在を示している。導出した数式で表される自転公転のさらに下位の回転の存在を予感させる。極小領域の水素原子の電子が同様に「自転しながら公転」という構造を持っていたことを考えてみれば、宇宙の階層構造の存在がおぼろげに見えてくるだろう。

 この階層構造が実際に目に見える例はないだろうか。Shapley1という惑星状星雲がある。ほぼ円環の形状を持つ。この星雲のシミュレーションには、1重の「自転しながら公転」構造であるB式が必要だ。2重の「自転しながら公転」構造であるパターン@やAの数式ではできない。また、Hoag's Objectという円環状の環状銀河も存在する。星雲や銀河はともにこの階層構造をとりうることの傍証になるのではないか。

環状銀河
ウィキペディア:環状銀河
●星間ガスを発生させるエネルギーはどこから来るか

 もうひとつ、星間ガスを発生させるエネルギー源について述べておきたい。このシミュレーションを実際の写真と比較するとき、基本となるルールがあった。原点に近いほど強く発光し、シミュレーション図形の周辺になるほどぼんやりとしか写らないことだ。その理由は、試論で述べたコーシーの積分公式であると私は考える。複素平面上で特異点の周りを一回転するとき、どんな経路を取ろうとも、一定量のポテンシャルが発生するという法則だ。この法則に従うと、動径の先端が原点近くを通過するほど、言い換えれば虚数角が急激に変化するほど高密度のエネルギーを発生する。よって経路が原点に近いほど発生するエネルギー密度が高く、周辺部ではエネルギー密度が低いことになる。一定角度ごとに図形に打たれた点と点の間隔が、原点近くで狭まるのを見れば一目瞭然だ。このエネルギーが何らかのメカニズムで星間ガス化したとすると、原点に近いほど写真にはっきり写ることが説明できる。

キャッツアイ星雲中心部

 しかし、もし星雲や銀河の形成メカニズムが上のようなものであるとしたら、重大な疑問が生じる。ダークマターやダークエネルギーの存在を仮定する必要は本当にあるのだろうか?
 銀河の回転速度は、銀河中心からの半径によらず一定であるという観測結果がある。これを重力によって説明するためには、銀河の質量はもっと大きくなければならない。そのために質量だけの存在であるダークマターが仮定された。事情はダークエネルギーでも似たようなものだ。実際に検出されたわけではない。

ウィキペディア:銀河の回転曲線問題

 私のシミュレーションでは、銀河が銀河の形をしているのは重力に支配されているからではない。銀河の質量分布も重力からの要請ではない。むしろ電磁気力を基礎としたプラズマ宇宙論に親和性があると考えられる。プラズマ宇宙論は、電磁気力と重力の相互作用によって銀河の回転曲線問題をダークマターの仮定なしに解決している。

ウィキペディア:プラズマ宇宙論

 ここまでの論理展開にビッグバンに類する概念は出てこない。宇宙論に出てくる赤方偏移の原因は、宇宙の膨張ではないと私は考えている。光のドップラー効果=ローレンツ変換=複素平面における回転が原因だと考えている。目の前にドーナツ型のチューブがあると仮定する。チューブの中で光が回転しているとする。光は実次元では直進するが、複素平面では湾曲するのだ。チューブの中の光がこちら向きに湾曲していると青方偏移になり、あちら向きに湾曲していると赤方偏移になる。赤方偏移とはそのようなものではないのか?


 …という仮定を立ててみたのだが、実は今までの説明で正しいのかどうか私には自信がない。虚4次元などという高次元が生身の人間に所詮理解できるはずがないと開き直りたい気分だ。夜空にまたたく銀河が本当は虚3次元図形だとは、いったいいかなることなのか。いにしえの哲学者プラトンが語った洞窟の比喩を私はおののきながら思い出す。

 生まれた時から暗い洞窟の奥で暮らす人々がいたとする。しかも洞窟の奥をずっと向いたままで、振り向くことを許されない。日常品の一切を直接見ることもない。ただ背後にある灯火が日常品の影を洞窟の壁に映し出すのを見て暮らしている。人々は影を物そのものだと信じている…。宇宙論の分野でもよく使われる、使われ尽くした陳腐な比喩だと私は思っていた。しかし、今にして思う。現代人の宇宙認識は、古代ギリシャの哲学者を一歩も超えていなかったのかと。


[前へ]  [トップページへ]  [次へ]